ずっと目を背けていた

 心のどこかでは受け入れていること

 だけど 現実味は帯びていないこと















  * h a p p y e n d *














 同窓会で 久しぶりに高校時代の同級生に会った

 変わったやつも 変わらないやつも それぞれにいて

 みんな懐かしがって 楽しそうな笑顔だった

 ただ僕だけは ここにいるはずだったあいつの姿がないことに

 現実を見せつけられている気がして いたたまれなかった


「俺、先帰るわ」


 高校を卒業して もう7年も経ったのか

 ここから駅までは 歩いて30分 いやもう少しかかったかな

 久しぶりに来たこの街も 同級生と同じで

 変わっていたり 変わっていなかったり

 だけど 正直なところ 記憶がぼやけてしまっていた


「麻人(アサト)」


 口に出してはいけなかった

 7年間 心の奥底に押し込んでいた記憶が

 ぐしゃぐしゃに丸めて 捨ててしまいたい そんな記憶が

 
 僕は 角を曲がった

 駅でも 学校でもないほうへ ひたすらに歩いた

 家には 婚約者が待っているというのに

 途中の花屋で 花を買って 
 
 僕の手は 鞄と 傘と 花で いっぱいいっぱいだった

 昔 高校時代の恋人に

 一生のうちで 一番愛した恋人に

 会うために僕は とある墓地へ

 そこには かつての恋人が その面影もなく佇んでいた


「来なくて 悪かった」


 初めて来た 麻人の墓の前で 花を供えて 手を合わせた

 僕の一番愛した人は ここで動けないでいる

 何も 言わない

 僕も 何も 言えない

 無言で 僕はそこから立ち去った

 










 河原を歩く
 
 雨が降り出してきて 辺りが灰色になった

 胸の中がいっぱいで 今から過去へ 行きたくなった


「麻人」


 僕はもう一度 最愛の人の名前を呼んだ

 それから 五月雨が降りしきる中 僕は長いまばたきをした

 その間に 自分の手から傘が滑り落ちるのと 雨が消えるのを感じた

 瞳を開けたら

















 僕は あの日の夕焼けの中に 立っていた

 
 
 周りには誰もいなくて ただ前に君がいるだけで



 君は振り返って 言った



「今日の晩ごはん、何にしよっか?」



 笑顔は 僕が知っている君のもの そのままだった



 高校時代 同級生だった君


 僕の家によく遊びにきては 一緒に夕食の買い物に行った君


 働く母さんの代わりに家事をする 僕の横に立っていた君


 同じ男なのに 僕を愛してしまった君


 同じ男なのに 僕が愛してしまった君 


 僕が 一生のうちで 最も愛した 君 



 僕は 7年という時を超えて 
 


 君に 最愛の君に出会えた



「麻人」


「何?」


「好きだよ」


「俺もだよ」



 ずっと言いたかったはずの言葉 でも これは違う


 他の人にも 言った言葉

 
 他の人は 他の人でしかないけれど


 麻人の代わりには 誰もなれなかったけど



「鷹ちゃんは今 幸せ?」



 そうだ 僕は 鷹ちゃんなんて 呼ばれていたんだっけ



「幸せ だよ」



 麻人が笑った

 
 僕も笑った


 夕焼けで茜色になった河原を 手を繋いで歩いた

 
 二つの影が 少しずつ寄り添っていく



「鷹ちゃん キスしよっか?」


「   いいよ」



 僕と麻人は キスをした
 

 軽く 触れ合うだけの だけど ひどく優しいキス

 
 過去に ほんの一瞬だけ 戻った


 二つの影が 一つになって 麻人は 僕の中に消えた


 サヨナラの言葉を残して














 僕は 雨の日に戻ってきた

 落ちていた傘を拾って 湿った髪を撫でた

 涙が頬を伝った

 幸福に ほんの少しだけ寂しさを交えて 涙は流れた


















 僕は サヨナラがしたかったんだ


















 出会ったら いつか別れなければ ならない


 生きて、か  死んで、か


 人は そういうものだから



 君を 忘れはしない


 だけど 君と別れて 僕は愛すべき人のために


 この命を 溶かしていきたい


 君と サヨナラができてよかった


 もう会えない君に またね は 言えないから


 愛すべき人を 君のように愛せますように


 これが 素敵な 恋の終わり方







 h a p p y e n d



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