ずっと このままのほうがいいと思った
 だけど ずっと このままではいけないとも思った











 エンドレス ロマンチスト
 









「ミモザ」
「ん?」


 毎日続いていた、暑い日も今日はお休み
 はっきりしない曇りの天気、太陽にも夏休みがあるみたい
 僕は、いつものようにこの店にやってきて、いつもと同じ椅子に座っている


「何でもないよ」
「どうしたの?」
「ミモザは、どうして優しいの?」

 
 ずっと思っていたこと
 あの日から、雨が降って、ミモザと同じ傘の下で歩いて
 それから、別れ際にキスをしたあの日から、ずっと思っていたこと


「それはリシェが好きだから」

 
 とっても簡単な答えが返ってきた
 

「好きってどれくらい?」
「言葉じゃ言い表せないくらい」


 僕としては、ちょっと不満な答え
 その原因は、キスにある
 ミモザは僕を、自分の特別にしてくれたけど、今までと何も変わらない
 時々、ほんの時々キスをして抱きしめてくれるだけ


「それがどれくらい?」
「リシェ、好きっていう気持ちは言葉で表せるほど、簡単じゃないんだよ」


 膨れっ面の僕を、ミモザの手が優しく撫でる


「どういう、こと?」
「リシェは俺が好き?」
「好きだよ」


 そう言ってから、ちょっとだけ違和感を感じる
 好きって、何?
 自分で自分に問うけれど、答えは見つからない


「すごく、すごく、好き」
「そう?」
「うん、本当に、好き」


 やっぱり、ちょっと違和感


「好きでいるのは、幸せ?」


 今度はミモザからこんな質問
 僕は一生懸命考えて、答えを出す


「幸せ、だって今幸せだから」


 また、あの日のように雨が降ってきた
 僕は今日も傘を持っていない


「雨、降ってきたね」
「うん」
「リシェ、立って」


 言われたとおりに立ち上がると、ミモザの腕に導かれた
 抱きしめられて、鼓動を聞いて、瞳を閉じる


「これは幸せ?」
「うん…幸せ」
「じゃぁ、これは?」


 柔らかい唇が、僕の唇と重なる


 長い、長いキスだった


「すごく…すごく…」


 溢れかえる想いが、僕の口を塞ぐ
 ずっとして欲しかったこと、ずっとずっと待っていたこと


「言葉にならないよ…」
「それが好きってことだよ、リシェ…」


 好き、そう口にしなくても気持ちが満たされていく
 雨の音がひどくなって、部屋の中が一層静かになる

 いつしか、僕はミモザに抱かれて泣いていた


「帰ろう、雨がもっとひどくならないうちに」


 僕は黙って頷いた













 僕の家まで、あんまり話すこともなくて
 だけど手を繋いでいると、互いに気持ちを伝えられている、そんな気もした


「リシェ」
「何?」
「今度、俺のうちにおいで」
「店じゃなくて?」
「うん、うちにおいで」


 その意味を図りかねて、僕はミモザをじっと見つめた
 水溜りの中で、僕は足を止めた


「とても、とても、大事にするよ」


 その言葉を聞いて、胸が熱くなる
 雨が降っているのに、傘の柄を持つ指先がジンとしていた


「さぁ、着いたよ」


 また、ミモザとキス
 さっきよりは短い、でもいつもよりは長い長いキスをして、僕たちはわかれた


 振り向くと、雨の中でミモザが手を振っていた





 エンドレスロマンチストの僕は 雨に濡れて 恋人に手を振った
 大事にすると、恋人は言った
 だけど 僕は不安になった
 エンドレスロマンチストの僕は 彼を大事にできないかもしれない、と

 だって、僕は、無力だから...









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