願いごと*花火






「空気がおいしい。」
「そうだな。」

 俺はやっとの思いでとった夏休みを利用して、馨と軽井沢へやってきた。
 馨と付き合って1年になり、その記念も兼ねてのことだった。
 小さなペンションに宿をとり、バスを利用して市街地へと買物に出かけた。
 帰ってきてからは、ペンションのほうで用意してもらってバーベキューを二人で楽しんだ。

「バーベキューなんてすごい久しぶりだった。」
「うまかったな。」
「えぇ。これからどうする?」
「どうするか?あ、明日の飯はどうする?」
「夕食しかついてないもんね。コンビニにでも行って・・・」
「そうだな。それしかないしな。」

 電灯の少ない夜道を手を繋いで歩く。
 道路の下を通る川のせせらぎが聞こえ、微かに吹く夜風が木々を揺らしていた。
 
「おにぎりにするか?」
「そうだね。あと飲み物も。」
「あぁ、そうだな。」
「お菓子買ってもいい?」
「・・・いいぞ、別に。」

 俺は笑いながらそう答えた。
 馨は甘いものが大好きだ。
 カゴの中に飴やチョコを静かに入れていく。

「他に買うものないか?」
「あとはー・・・花火買いたいな。」
「花火?おう、買うか!」

 色々な種類が入っている花火のパックもカゴの中へ放りこんで会計を済ませる。
 右手にビニール袋を持ち、左手を馨と繋いで暗い道を引き返してペンションに戻った。

「花火するか。」
「えぇ。どこでする?」
「その辺で。」

 ペンションには俺達以外の客がいないらしい。
 部屋の電気がついているのは俺達の部屋だけだ。

「花火なんてすごい久しぶり。」
「俺もだ。花火なんてしないよなー。」
「子供たちとはしないからね。ちょっと危ないし。」
「確かにな。幼稚園生じゃな。」

 袋を開けて、中の花火を取り出して並べる。
 火をつけると赤や緑や黄色の光が飛び出してきて、辺りが少し明るくなった。

「うわぁ、綺麗・・・」
「こういう花火でも結構いいもんだな。」

 久しぶりにした花火は思いの他楽しいものだった。
 それは馨も同じであるようで、楽しそうに微笑んでいる。

「さぁ、最後。」
「やっぱり締めはこれだよな。」

 線香花火に火をつけ、揺れないように優しく持つ。

「知ってる?」
「ん?」
「この線香花火が最後まで落ちないで消えると願い事が叶うって。」
「へぇ。何か願い事をするか。」
「俺も。」

 俺はもちろんずっと馨と一緒にいれるように祈った。
 ふと馨を見ると、線香花火の光をじぃっと見つめていた。
 パシパシと音をたてながら光る球は、微かに震えて今にも落ちてしまいそうだ。

「落ちるなよ。」
「落ちないで。」

 息まで止まってしまいそうなほど真剣に俺達は線香花火を見つめていた。

「「あ・・・・」」

 二つの光は静かに消えていった。
 馨がほっと息をつく。
 俺もそれにならうようにして、大きく息を吐いた。

「なぁ、馨。」
「何?」
「願い事何にした?」

 馨の頬が少し赤くなって口元に恥ずかしそうな笑みを浮かべた。

「聞かなくたってわかるでしょ?慈行さんは?」
「お前とずっと一緒にいたいって。」
「俺も・・・もちろん・・・」

 そう言った馨の唇を俺は自分の唇でゆっくりと塞いだ。
 柔らかいこの唇の感覚が何とも愛しくて、俺はついつい口付けを深くしてしまった。

「部屋、帰ろう?ここじゃ・・・」
「あ、あぁ。その前に花火を片づけないとな。」
「そう、だね。」

 俺達は辺りに軽く水を撒いて、花火を借りたバケツの水の中につけた。

「花火楽しかった。」

 ふわっと笑った馨の顔が可愛くて、俺はまたキスをしたくなった。
 その気持ちを察したのか、馨がこんなことを言った。

「部屋戻るまで。」
「駄目?」
「だーめ。」

 馨と出かけた初めての旅行の初めての夜はとても甘くて、俺達にとって最高の想い出になった。
 願い事が叶うと信じて、俺はゆっくりと瞳を閉じる。
 夢の中で馨に会えることを密かに願いながら、腕に大好きな馨を抱きしめて・・・





 I wish on a sparkling firework.

 I'll keep my fingers crossed.

 We have no warrant for our hopes,

 but we believe in getting our wish.....







 

 



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