たった3つ年上なだけ

「好きだよ。」
「俺も湊(みなと)のこと大好きだよ。」

 素直、俺とはほど遠い言葉だったはずだったのに
 何故か俺は変わってしまった
 湊に会って、変えられてしまったんだ、俺の全てを



 愛しすぎて



 記憶というものは不便だ
 必要なことは大して蓄えないくせに
 忘れなければならないことを無駄に留めておいたりする

 例えば…そう、湊が好きだった言葉とかね
 あげていったらキリがないくらい覚えてる
 "覚えてる"なら英単語のほうがずっと役に立つ

「寒い・・・」

 手の中にはページに緑のマーカーを引かれた英単語本
 湊と出会ったのもこんな寒い季節だった
 まだ高校1年生のときのこと、経った1年で俺はこんなに変わった
 湊に会って、良いことばっかり教えてもらったから

 俺は心の中で、湊が好きだと言っていた言葉を反芻する
 その好きな言葉の中に、俺の名前は入っているのだろうか、今も
 いやそもそも入っていたのだろうか、真人(マコト)という名前は

 そう考えると切なくなって
 自分の存在価値を疑いたくなって
 マフラーに顔をうずめて、少し泣いた

 口の中で湊…と小さく繰り返しながら








男同士で不倫なんてするもんじゃない、わかっていた
でもわかってるつもりになっていただけだったのかもしれない



You Go Your Way



"愛には人は勝てないものだよ"

大人の"先生"がそう言ったことを僕は鵜呑みにして
"先生"といっても、それはあだ名で
ちなみに僕は"君"と、ただそう呼ばれていた
不倫だからと、遊び半分でそんなことをしていた

だから僕は"先生"の本当の名前を知らない

別れるときまで名前を知らなかったなんて、馬鹿みたいだ
寒い、寒くて仕方がない

「離れたくない…」

そう言ってみた
気持ちは伝えておいたほうがいい
もっともっと何かを言おうとした僕の口を"先生"は優しく塞ぐ
その両手は酷く冷たくて、僕は黙ってしまった
手が冷たい人は心が温かいというけど、"先生"もそうなのだろうか

寒いけど、いや寒いから、すごく月の綺麗な夜で
最後の別れにしては何だかロマンチックとも呼べてしまうような月明りに照らされて
僕は泣いていた
"先生"も泣いていた
隠さない涙が月に照らされてキラリと光った

それからしばらくして、僕たちはキスをした
もう二度と会わない、そんな誓いのキスをして

僕たちは別れた











 最後の夜



 卒業だから別れなきゃいけないわけじゃない
 違う学校に行くからって、会えなくなるわけじゃない
 でも俺たちは別れることになっている、今日という日に

 明日にこの寮を出る
 だから今夜は最後の夜ってわけだ

「ねぇ。」
「何?」
「好きだよ。」
「俺のこと?」
「そう、よくわかってんじゃん。」
「別れたくないとか、言うなよ。」
「言わないよ、そんなこと。」

 小さな声で、言いたいけどと付け加える
 瞭(あきら)は振り返って言った

「俺だって好きだよ、お前のこと。」
「知ってる。」

 好きあっているのに別れる俺たち
 互いのためを思って、本当にそのつもりだった
 大人になろうなんて綺麗ごと、言ってるつもりじゃなかった

「大学行ってさ、彼女できたら教えてね。」
「うん。」
「可愛くなかったら俺、怒るよ。」
「お前も教えろよ。」

 俺は頷く
 でも笑顔にはなれない
 まだ気持ちの整理がちゃんとついてない
 
「キスしていい?」
 
 珍しく瞭のほうからそう言ってきた
 
「駄目。」
「何で?」
「泣きたくなるから。」

 今まで数え切れないくらいしたキス
 キスして泣いたことなんて、一番最初のときだけ
 あのキスで変わった俺たち、恋人になった
 今までの関係をリセットして、新しい関係になった

「そうだな。」

 電気を消して、それぞれのベッドに入る
 
 絶対泣かない
 そう決めていたのに、俺はやっぱり泣いた
 明日の朝、目が腫れてしまっても構わなかった
 今泣けば後で泣かなくてすむ、そう自分に言い聞かせて
 俺は声を押し殺して泣き続けた



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